人形佐七捕物帳011
一言でいえば｢肩透かし｣。いえいえ、
「仮面の若殿」（横溝正史）
（「完本 人形佐七捕物帳一」）
春陽堂書店
佐七･辰･豆六の目の前で、
三度掏摸の茶番を見せた若い娘と
町人･浪人の三人組。
何かあると踏んだ佐七たちは
三人組を追いかけるが、
たどり着いた長屋では、
男二人がすでに毒死していた。
もう一人の娘も、
佐七の眼前で拉致される…。
横溝正史の時代物、
人形佐七捕物帳第十一話
｢仮面の若殿｣です。
読み終えて複雑な思いを抱いています。
一言でいえば｢肩透かし｣。
いえいえ、作品の質が悪いと
いっているのではありません。
【捕物帳〇一一｢仮面の若殿｣】
雛
…土岐家腰元。甚兵衛･源助とともに
土岐家嫡男の行方を捜している。
梁川甚兵衛
…浪人。もとは旗本御用人。
毒に当たって死ぬ。
事故か他殺か不明。
源助
…もとは折助の若者。
毒に当たって死ぬ。
事故か他殺か不明。
土岐頼母
…旗本の名家の当主。亡くなる。
土岐藤之助
…土岐家嫡男。十八歳。
行方不明となっている。
土岐千弥
…土岐家次男。正室の子。十二歳。
鵜飼采女正
…土岐頼母正室の実兄。
河田権左衛門
…土岐家家老。
弥吉…黒門町の御用聞き。
神崎甚五郎…八丁堀の与力。
辰･豆六…佐七の乾分。
お粂…佐七の女房。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
本作品の味わいどころ①
事故死か毒殺か…でも肩透かし
目の前で茶番劇を繰り広げた三人組。
何かあると踏んで、
その足どりを追った佐七一家ですが、
若い町人と年配の浪人は、
すでに事切れていたのです。
現場には河豚鍋が。
一見、二人は調理法を間違えて
河豚にあたったように見えるのです。
しかし河豚にあたったと見せかけた
毒殺の可能性も否定できません。
佐七はどうやって
そのトリックを見破るのか…
そう思って読み進めると、
肩透かしを食らいます。
真実はどうなのか？
ぜひ読んで確かめてください。
本作品の味わいどころ②
すわお家騒動か…でも肩透かし
もう一人の若い娘も姿を現し、
佐七に助力を求めます。
聞けば彼女は土井家の腰元。
その土井家の当主が亡くなった、
嫡男･藤之助は以前より行方不明、
藤之助は長男であるものの、
当主がかつて腰元(すでに死亡)に
産ませた男子、
次男･千弥は正室の子、
正室とともにその実兄･鵜飼采女正と
土岐家家老･河田権左衛門が
ぐるになって嫡男･藤之助の追い落としを
画策しているらしい、とのこと。
土岐家ではどうやらお家騒動が
勃発しているのかも知れない…
そう思って読み進めると、
肩透かしを食らいます。
真実はどうなのか？
ぜひ読んで確かめてください。
本作品の味わいどころ③
佐七一家全滅か…でも肩透かし
目の前で雛を拉致された佐七。
連れ去った武家人は
どうやら土岐家の家臣らしい。
雛を尾行していた豆六も、
その豆六を捜索していた辰も、
音沙汰がない。
二人もどうやら捕まったらしい。
土岐家の内情を探るため、
佐七はついに土岐家潜入という
禁じ手に出ることを決意します。
土岐家に広がる深い闇を、
佐七が命懸けの活躍で
暴き出すのだろう…
そう思って読み進めると、
肩透かしを食らいます。
真実はどうなのか？
ぜひ読んで確かめてください。
これまでにないくらいの覚悟で
土岐家侵入を果たした佐七が、
一番肩透かしを食らったはずです。
これも横溝は計算の上で
そうしたことなのでしょう。
読み手の裏を徹底的にかき、
あえて肩透かしを食らわせる。
作品すべてで数百篇ある横溝です。
こういう肩透かし作品も
あっていいでしょう。
十分に愉しめます。
…いや、真実はどうなのか？
ぜひ読んで確かめてください。
【「完本 人形佐七捕物帳一」】
羽子板娘
謎坊主
歎きの遊女
山雀供養
山形屋騒動
非人の仇討
三本の矢
犬娘
幽霊山伏
屠蘇機嫌女夫捕物
仮面の若殿
座頭の鈴
花見の仮面
音羽の猫
二枚短冊
離魂病
名月一夜狂言
螢屋敷
黒蝶呪縛
稚児地蔵
〔人形佐七捕物帳はいかが〕
〔横溝ミステリはいかが〕
探偵ものも時代ものも、
すべて面白い横溝作品です。
十分に味わい尽くしましょう。
（2018.1.10）
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